旅の最後に訪れた駅
桜を巡る中国地方鉄道のローカル線の駅をめぐる旅で、最後の訪問駅が山陽本線の四辻駅となった。沈みゆく太陽に駅舎が染められている時で、近付きつつあるこの旅の終わりを噛み締めた。
駅舎側のホームにはタイル張りの古めかしい水場があった。
四辻駅にはかなりリニューアルされているが、駅開業の大正9年(1920年)以来の古い木造駅舎が残っている。駅舎はレールの高さに合わせられた、小高く盛られた台のような所に建てられている。斜面には植え込みが並び、松の木も植えられ、庭園の中に駅があるような趣だ。
この駅には、今回の旅の目的だった桜の木こそは無かった。しかし、車寄せの両側に、門のように2本の松の木が美しく飾られている。2本の松は庭園のような空間にある駅舎に更に情感を添えていた。
駅舎外壁の大部分は新建材やサッシ窓でリニューアルされていた。しかし、車寄せは使い込まれた木がのままの造りを残し、駅の歴史を感じさせた。
車寄せの横には干上がった池があった。水が湛えられていた頃は、松の木や植込みとともに、まさに庭園のような光景を作り上げていたのだろう。
駅前には昔懐かしい丸ポストが健在だ。
駅から少し歩くと、のどかな畑の風景となった。そんな中、道路沿いに、バス停がポツンと佇んでいた。だが、ポールが立っていたり、時刻の案内が掲示されている訳ではなかった。路線廃止で使われなくなったのだろうか…。夕日を浴び佇む姿がどこか寂しげに映った。
待合室も綺麗に改装されていた。しかし、無人駅となった今、窓口はカーテンで固く閉ざされていた。
誰もいない待合室で、不意に列車接近の表示が黄色く光った。私の帰宅を促すように光る表示がうらめしく私の目に映った…
[2007年(平成19年) 4月訪問](山口県山口市)
追記: 四辻駅改築
2020年(令和2年)に四辻駅は開業百年、そして木造駅舎は百歳の誕生日を迎え、駅には地元住民による開業百年を祝う垂れ幕が掲げられたという。
しかしこの節目の年に、木造駅舎が取り壊され、新駅舎に建て替えられる事になった。2020年10月20日が木造の旧駅舎での最終営業日となり、翌21日にその駅舎は封鎖され本格的な建替え工事に入った。
駅舎改築で、意外だったのだツイッターなどSNSでの反応だ。これまで、話題になった駅舎ではなかったが、改築を惜しむ声た多く聞かれた。豊かな植込みに佇む木造駅舎はやはり美しく、密かに人気があったのだとしみじみと感じだ。
私が訪れたのは4月で、庭園のような風情がやはり印象的だったものの、改めて見返すと春を迎えたばかりで冬枯れ感がまだあった。他の方の写真を見ると、活き活きとした緑の植木はより印象深い。そんな時期にも訪れたかったものと、彼らを少し羨ましく思った。
~◆レトロ駅舎カテゴリー: JR・旧国鉄の失われし駅舎~