美濃赤坂駅 (東海道本線・美濃赤坂線)~味わい深い木造駅舎が佇む終着駅~



大動脈・東海道本線、もう一つの終着駅

 大垣始発の列車は、ものの6分で終点の美濃赤坂駅に到着した。大動脈の東海道本線からちょろっと分岐すると僅か2㎞程度…、美濃赤坂線(赤坂支線)はこれでおしまいだ。

東海道本線・美濃赤坂駅、西濃鉄道のホームが威容を放つ

 1面1線のホームで旅客列車はここで行き止まりだが、同駅を基点とする貨物鉄道の西濃鉄道が分岐している。美濃赤坂線の駅設備は、西濃鉄道の広い構内の片隅で肩身が狭そうに設置されている。古い木造の上屋が載った長い貨物用ホームも威容を放つ。

 だが、広い構内はまるで撤収後のようにがらんとしていて、廃線のムードさえを漂わす。美濃赤坂駅を訪れたのは2回目だが、以前は貨物ホームにたくさんの物が積まれ、側線には貨車、コンテナなども多く留置されていた記憶しているのだが…

東海道本線赤坂支線・美濃赤坂駅、駅構内の花壇やランプ小屋

 ホームを降りると、左手に広い花壇があった。他の駅では見られないゆとりのある空間だが、木々や花は枯れ「冬だから」で片付けられないような荒れた侘しい雰囲気になってしまっている。かつての花壇は花々が咲き誇り、緑がまぶしく乗客の目を楽しませたのだろうか…。

 花壇の奥に、レンガ造りの危険品庫と木造の倉庫がある。どちらも古めかしく、建てられてから相当、時が経っているのだろう。

意外な鉄道遺産が木造駅舎の中に…

終着駅・美濃赤坂駅、ホームからやや離れ位置する木造駅舎

 行き止まりの駅で、プラットホームに突き当たるように横長の駅舎が配され終着駅を感じさせる。そして木の雰囲気を十二分に残した趣きある駅舎が旅人を迎え入れる。

 駅事務室内に人はいるが、西濃鉄道の貨物運行上の要員で、切符販売などと言った旅客業務は行わなく、旅客上は言わば無人駅だ。でも、駅事務室から常に人の気配はするので、無人駅と言っても、どこか有人駅のような趣だ。

東海道本線美濃赤坂線、美濃赤坂駅の木造駅舎

 美濃赤坂駅の木造駅舎は駅開業の1919年(大正8年)以来のものがいまだに現役だ。瓦屋根こそ変えらたらしいが、他の部分では大きな改修もされていなく、窓枠さえも木製のままだ。よく昔のままの造りを留めている。「支線」という響きが格下っぽさを感じさせるが、東海道本線最高のレトロ駅舎の一つだ。

 木の質感豊かで味わい深い佇まいだが、正面に自転車置き場が立ち塞がり、全容がきれいに眺められないのが少々残念だ。利用者の利便性を考えれば止むを得なく、これほどまでに素晴らしい木造駅舎が残っている事で良しとしよう。

東海道本線赤坂支線・美濃赤坂駅の待合室

 無人駅となり、出札口や手小荷物といった窓口跡が塞がれるなど、あちこちが改修されているが、外観同様、昔懐かしい木造駅舎の雰囲気に溢れる。

美濃赤坂駅、待合室の古くレトロな木製ベンチ

 待合室にレトロな木製ベンチが2脚、並べて置かれているのが目に入った。使い込まれた雰囲気はするが、その割に状態はいいように思う。

 肘掛の側面を見ると、蒸気機関車の動輪が小さく彫り込まれてた。動輪は国鉄の紋章として広く使われたマーク。古い木製ベンチにさり気なくこんな装飾が施されていたなんて…。まさに長い歴史誇る国鉄駅舎に相応しいベンチで、駅に更なる貫禄を添えるかのようだ。

 この凝った装飾に感激して、レンズを換え、アングルを変え、絞り値を変え写真を撮りまくった。最初はちょっと駅を見るつもりで、十数分後の折り返しの列車で美濃赤坂駅から離れようと思っていた。だけど、こんなんにも味わい深いものを目の前にし、そんなのどうでもよくなってきた。その内、背後から列車がモーターとジョイント音を響かせ、ホームから列車が離れて行く気配を感じだ。

東海道本線・美濃赤坂駅の木造駅舎、木の質感豊かな壁

 側面を見てみると、こちら側も古い木のままの窓枠や外壁だ。使い込まれ、深く刻まれた皺のように木目が浮き出ている。ここまで古びた木の質感は、やはり素晴らしい。

美濃赤坂駅・西濃鉄道直営の喫茶店

 駅舎の前には駐車スペースがあり、その一角に「西鉄 サロン」と看板を掲げた喫茶店があった。どうやら西濃鉄道直営の喫茶店のようだ。道路一本隔てた所には、これまた西濃鉄道直営の旅行センターがある。その目の前にも、別の旅行センターがある。こんな所で旅行代理店が顔を突き合わせていて商売になるのだろうか…

 美濃赤坂駅は大仰な貨物駅設備を除けば、閑静な住宅街の中にある。北に数分歩くと、中山道赤坂宿がある県道216号線の方が商店などが並び、車の往来も多い。せっかくなので少し歩いてみた。幕末、徳川家茂に降嫁する道中、皇女和宮が宿泊した事で知られる赤坂宿本陣跡があり、古さを留めた家屋がいくつも残るなど、街並みは宿場町の香りをいまだに残していた。

 そして、中山道を横切る西濃鉄道の線路沿いに、駅の遺構のようなものものが残っているのを発見した。赤坂本町駅跡だ。西濃鉄道は今でこそ貨物鉄道だが、戦争末期までは旅客列車も運行され、美濃赤坂を超え、終点の市橋まで行っていたという。

(関連記事: 西濃鉄道・赤坂本町駅跡)

[2007年(平成19年) 1月訪問](岐阜県大垣市)

レトロ駅舎カテゴリー:
一つ星 JR・旧国鉄の三つ星レトロ駅舎

追記

 木造駅舎は相変わらず健在で嬉しい限り。ただ2010年10月に再訪した時、あの動輪マーク入りのベンチは2脚とも無くなっていて、新しいベンチに取り替えられていた。何処に言ってしまったのだろうか?他所で大切にされているといいのだが。

東海道本線・美濃赤坂駅の木造駅舎、窓口跡
美濃赤坂駅、意外と原形を留めた窓口跡。(2010年)

 前回の訪問ではさして気に留めていなかったが、ベンチ背後の手小荷物窓口跡と、その右側の出札口(切符売場)跡は、カウンターがしっかり残っていて、意外にも良く原形を留めているのに気づいた。一見の価値あり!塞いでいる板を剥がすと、窓部分も意外とかつてのままなのかもしれない。

(関連記事: 木造駅舎でたまに見かける動輪マーク入りのレトロな木製長椅子)