西武生駅から北府駅へと駅名変更
地図を見ていると、福井鉄道に北府駅という駅を発見した。あれ?武生から乗ったら次は西武生駅じゃなかったっけ?と、かつて訪れた西武生駅の木造駅舎を思い浮かべながら改めて調べてみると、2010年の3月25日から北府(きたご)という駅名に改称されていたのだった。その他、同日に始発の武生新駅が越前武生駅になるなど何駅かで駅名改称が行われていた。
北府駅…、私が訪問した2008年当時はまだ西武生駅だった。
駅に隣接して本社、修理工場、バス部門の営業所などがある福鉄の一大拠点だ。2005年4月の名鉄岐阜市内線の全廃により、余剰となった路面電車型の低床車両が名鉄より譲渡された。そのため、譲渡車両に合わせホームのかさ下げ工事が各駅で行われた。岐阜市内線の廃線を知り乗車に行っのたが、「きれいでまだまだ使えそうなのに、この車両達はどうなってしまうのだろうか…」と寿命半ばで引退を強いられる運命を哀れにさえ思った事は鮮明に覚えている。だけどこうして新天地で活躍している様子を見て本当に良かったなと思う。
プラットホームがかさ下げされる前の2005年に訪問した時、プラットホーム上には、枯れた池がある庭園風の一角があったものだ。しかし、今は見当たらない。とうに不要となっていて、どうやら工事の際に撤去されたようだ…。
構内の福井方には、古めかしい木造の車庫も残っている。従来からの福鉄生え抜きの車両もあるが、名鉄岐阜市内線からやって来た譲渡車があちこちに留置され、福鉄の主役になった感さえ受ける。
情感溢れるCMで話題となった木造駅舎
駅舎の前に立ってみた。年月を経てより渋味を増した木の色は印象深く、この駅の長い年月を感じさせる。1924年(大正13年)築の開業以来の駅舎だ。車椅子用のスロープが軒の下に設けられ、駅舎に入らなくてもホームに出られる構造になっている。全体として趣を壊す大掛かりな改修はされていなく古い駅舎らしい雰囲気を十二分に感じるが、漆喰が剥がれるなど老朽化も目立つのも気になる。
このレトロな佇まいが注目され、ソフトバンクモバイルのCMのロケに使われ、2010年2月に放送された。
「白戸家のお父さん犬とお母さん(樋口可南子)が旅の途中、雪で包まれたこの駅に訪れて・・・」という内容で、雪降る中、タイムスリップしたかのような古い駅で列車を待つ夫婦が見たものは、そして何を思ったか・・・。昔懐かしい木造駅舎が放つ独特の空気感を背景に、僅か30秒ながらも情感の詰まった物語が展開された。
プラットホームはカーブ掛かった構造になっている。越前武生方面ホームに福井鉄道生え抜きの車両200形電車の新塗装車が入線した。1960年(昭和35年)年登場の古豪は、名鉄からの新顔が幅を効かす中、まだまだ現役で重厚な存在感を放つ。ソフトバンクモバイルのCMで使われた車両はアイボリーに青線の200形標準塗装車だ。やはりこの古く趣きある木造駅舎にいちばん似合うのは古豪の200形だろう。
越前武生駅方面ホームの駅出入口は、階段が設けられただけの簡素なものだ。駅から一歩踏み出すと、直に細い路地が続く住宅街に出る。
側面から駅舎を見渡しても、木の質感が溢れる趣き深い佇まいだ。無人駅なのがもったいない。
駅は福井鉄道本社の敷地の中のにあると言った雰囲気で、駅舎は表通りより少し奥まった場所にある。表通りから駅舎に行く途中、木造の倉庫や、何か福井鉄道に関連する施設だったと思われる建物もある。
そして表通りに面して、福井鉄道の元本社だった木造の大柄な建物がある。見るからに古めかしく、駅から裏側を見ても、表通りから正面を見ても圧倒的な存在感がある。駅へは右横の細い道から2、30メートル程歩いた所にある。
訪問時、この建物は活発に使われている様子は無かったのが、少し惜しいような気がした。倉庫か何かに利用されているのだろうか・・・?
駅舎の正面出入口の上に、木で縁取られた細長い穴のようなものがあった。通風孔か何かだろうか?ホーム側の出入口である改札口上部にも、同じものがあった。
駅舎正面左側の出入口横の医院の看板が掛かっている部分には、売店跡かたばこ屋跡と思しき構造が残っているのが気になる。上には小さな軒があり、その下の窓の部分は木の扉のようなもでで閉じられたようになっている。両端は緩くカーブが掛かり丸みを帯びた窓口を連想させる造りになっている。木の扉を開けるとガラスのショーケースやカウンターが現れたのだろうか・・・。
だが、その売店跡と思しき背後の構造物は現在では撤去、改装され自転車置場になっている。ソフトバンクモバイルのあのCMでは、この自転車置場は木の板で塞がれ、造り付けの木製ベンチや忘れ物告知の黒板が設置されるなど、より木造駅舎の待合室らしい造りが再現されていた。
かつての出札口、改札口付近と待合室も昔のままの造りが良く残る味わい深い空間だ。使い込まれた木製ベンチも置かれている。
天井を見上げると木のままで、竿縁天井の造りを残す。漆喰共々、開業以来の造りなのか、汚れが染み付き、かなり古びた感じがする。
素朴な木造駅舎だが、波型の軒飾りがつけられ、ちょっとした遊び心を感じる。
CMが縁でおとうさん犬が北府駅の名誉駅長になり、ソフトバンクからはお父さん犬のぬいぐるみが贈られた。北府駅は無人駅のため、隣の越前武生駅で〝出張〟勤務に就いて人気だという。駅長就任記念にお父さん犬の役を好演するカイ君が記念に来駅したら面白く話題になるだろう。
しかし残念ながらソフトバンクモバイルのCM紹介ページによると、老朽化のため駅舎の建替えが検討されているという。折角、CMを機に、この駅の魅力に気づいた人が多いのに、また一つ名駅舎が失われようとしているのか・・・。
[2008年(平成20年) 10月訪問](福井県越前市)
~◆レトロ駅舎カテゴリー: 私鉄の三つ星駅舎~
追記: 大改修された北府駅
ソフトバンクモバイルのCMで広く知られるようになった北府駅の木造駅舎は、取壊しから一転、昔の雰囲気を残しながら大改修され、2012年3月に工事が完了した。旧駅務室跡は福井鉄道で使われていた鉄道用品をなど展示したミニ展示室として公開されている。また、旧本社社屋は取り壊されパーク&ライド駐車場になるなど、この訪問当時とは大きく変化している。
2013年、駅舎(駅本屋)が国の登録有形文化財となった。
改修後の北府駅訪問記は姉妹ブログ「ある日、旅の空で…」の下記記事へどうぞ。
「木造駅舎が大改修された北府駅(福井鉄道)」