大谷焼に狸伝説…郷土色豊かな池庭跡
高徳線と鳴門線の乗り換え駅の池谷駅で下車すると、両ホームの間に枯れた池のある庭園跡があるのを発見した。
池は駅の構内にちょっと作ってみたと言うには、結構大きめで、まるで露天風呂だ。中には鳴門市の伝統工芸・大谷焼の睡蓮鉢や壷が置かれ郷土色も豊かで、見ていて楽しい。駅は町の玄関口なんだなと実感した。かつては鉢の中に睡蓮が咲いたのだろうか…。余裕ある空間を優雅に活用していて、水が張られていた頃は、駅の中にあるとは思えない庭園のような空間だったのだろう。
庭園の中を見渡すと、池の奥の方に祠があり、その横に狸の焼き物が鎮座している。この狸はただの置物ではなく、「段四郎大明神」と呼ばれ、池谷駅にとても縁が深いものだ。
池谷駅が出来た頃、不吉なことが続き伺った所、この地は段四郎という総領狸が棲んでいたが、駅の新設でその住家を奪われたので人に祟っているという。しかし、 お祀りしてあげれば 交通安全 家内安全 商売繁盛 に利益をあげるであろうとの宣託があったので、祠を作ったとの説明書があった。末尾に看板の設置者と思われる「阿波狸奉賛会」という会の名前が添えられていた。徳島県は狸の国と言われるほど、狸にまつわる民話が多い所で、毎年11月上旬には「阿波の狸祭り」が開催されている。
池の縁に大谷焼の巨大な壷が傾け飾られていた。壷の口は池の方に向いていて、口の下には睡蓮鉢が置かれていた。きっと壷の中に水道が仕掛けられ、壷から鉢に水が注がれ、鉢から溢れ出た水が池の中を満たしたのだろう。何と凝った仕掛けだろうか!だが、池が枯れた今、鉢の中には腐った雨水が虚しく溜まっていた。
枯池の中に置かれた睡蓮鉢の中に、キラリと光るものがあった。よく見ると鉢の底に、硬貨が何枚か投げ入れられていた。段四郎大明神に、ご利益を願ってのものだろう。しかし、かつては美しかったであろうこの廃れた池を見て、段四郎大明神にとって、住み心地はいいのだろうかと思った。だけど、鉄道が通じ駅ができる前は、一面の野原だっただろうから、元の雰囲気に一つ戻りかえって快適なのかもと思った。
[2005年(平成17年) 6月訪問](徳島県鳴門市)
16年後に再訪すると…
2021年7月に四国を訪れ、16年振りに池谷駅を訪れた。
高徳線の下り列車で降り立ち、やはりまず枯池を一望した。もっと廃れているかと思ったが、ほとんど変化が無かった。たぬきや小さな祠、大谷焼のつぼなど焼き物の数々は壊される事無くそのまま。池の水はやはりなく、草がぼうぼうで荒れているのは相変わらずだが。
だけど、後で以前の写真と見比べて見ると、たぬきと祠の距離が離れていた。何の意味もないのだろうけど。
段四郎たぬきを祀った祠をズームしてみた。前はパック酒が奉納されていたが、今回はたぬきの人形だった。何かがお供えされているよう。
夕暮れの駅で、独り黄昏るたぬき…
池谷駅訪問ノート
池谷駅は高徳線と鳴門線の接続駅で、プラットホームはちょうど両線の分岐点上にあり、V字状にレイアウトされている。そのため、両線の内側はゆとりある三角状の土地になっていて、枯池と駅舎が配置されている。両プラットホームへは跨線橋で繋がれている。
池谷駅の開業は阿波電気鉄道時代の1915年(大正5年)7月5日。建築時期は不明だが古くからの木造駅舎が残る。しかしJR化後に大幅に改修された。改修前の写真を見ると、増築の跡はあるものの、ありふれた感じの木造駅舎だった。改修後は敷き詰められた屋根瓦が印象的な和風住宅の趣きに…
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